・・・というはなし。

ひびこれよきひ

2017年10月4日中秋の名月の今日、鯵の値段にモヤモヤしながら月光の下、生命に感謝する

 

 

 

 18時45分。

 私は今、鯵の下処理をしている。

 2尾で196円という中途半端な値段で売られていた、長崎産の鯵だ。196円・・・。こういうのってだいたい、198円じゃないですかね。スーパーの冷蔵ケースの前で顎に手を当て「なぜ196円なのか」真剣に考えていると、年配の女性が早くどいてよ。という表情で隣に立っていた。慌てて鯵のパックをカゴに入れて歩き出した。買うつもりなかったのに。

 

売り場を周り一通り買い物を済ませると、わざわざ鮮魚コーナーまで戻るのも面倒になり、レジに向かった。そこのスーパーはセルフレジが設置されている。丁度、空いていたのでカゴを台に置き会計を始める。牛乳、ヨーグルト、根菜類など重くて形の崩れない物を先にバーコードリーダーに読み取らせていく。鯵のパックをつかむ。「長崎産、あじ2尾196円」ラベルが目に入る。196円・・・。モヤモヤする。なるべくラベルを視界に入れないように、素早くビニールに入れた。

 

 家に帰ると、買ってきた食材を冷蔵庫に収めた。鯵のパックはすぐ使うので出しておく。「長崎産、あじ2尾196円」ラベルの貼ってあるフィルムを剥がす。生の魚、独特の臭がする。鯵をつかむ。冷たい。ヒレがチクチクと皮膚に刺さる。包丁を鯵の腹に当て、5cm程割く。そこから指を入れて内蔵を指で掻き出す。血の匂いが台所を満たしていく。ぬるり、とした物が指先に絡みつく。一度水で洗う。セイゴを切り取り、包丁の背で鱗を削り取る。淡々と手を動かす。片側の処理が終わり、反対側に取り掛かろうとひっくり返した。その時、鯵と目が合ってしまった。その目は何の感情も持っていなかった。ただの、死んだ魚の目玉だった。なのに、心の中にストーリーが生まれていく。古い映画のフィルムのような映像付きで。オールカラーで。

 

彼はどこで生まれ落ち、厳しい大海を生き抜いてきたのだろう。海中を群れを成して泳ぐ鯵を想像した。深い青い海を自由に泳ぐ姿を。私が削り取ってしまった鱗は陽の光を浴びてキラキラと光っていたに違いない。ここで捕まらなければ、寿命を全うできただろうか。網に掛かってしまったとき、何を思っただろうか。恐怖?怒り?焦り?諦め?その目が最期に映したものは?鯵は何も答えずにまな板の上に横たわっている。


(c) .foto project

 ついさっきまで白いトレーに乗っていた「長崎産、あじ2尾196円」の人生(?)に思いを馳せる。どうしようもない妄想女を雲の隙間から月が見ている。血で汚れた手を石鹸で洗いながら「命をありがとう」つぶやいてみた。

 

       

                                                             ※ ※ ※

 

 

 

 何やら、大袈裟に書いてしまった。しかし、時々でいいから、こんな風に食卓に上る者たちの命を意識してみるのも悪くないのではないか。

 

我が国は、農産物の輸入大国です。年間5800万トンの食料を輸入していますが、その内1940万トンを廃棄処分にしています。これは、年間輸入量の30%に当たり、年間5000万人分に匹敵する食料で、金額換算で11兆円のお金を無駄にしていることになります。食料廃棄の内訳は、家庭の台所から出る生ゴミが約60%を占め、飲食店や食品工場から出る、食べられるにもかかわらず廃棄されているものが約40%、年間で800万トン近くあります。

                   国政モニター意見 農林水産省回答より

 

 鯵は身が柔らかく、とても美味しかった。けれど、骨だけはさすがに食べられなかったよ。ごめんなさい。鯵さん。本当にありがとう。(頭も残しました。)

 

 

 

最後までお読み下さり、

ありがとうございます。感謝致します。