・・・というはなし。

ひびこれよきひ

記憶のままで

 

 

  あの人に会いに行った

 

  ある所で共同生活をしている

 

  一緒に食事に行くはずだった

 

  行けなくなった

 

  歩くことが出来なくなった

  食事も自分で食べる事が出来ない

 

  もともと痩せている人だった

  ますます小さくなっていた

 

  細く白い腕に
  あおい血管が浮いている
  綺麗だな、と思う

 

  家族に助けてもらい

  起き上がった彼女に

  自己紹介をする

 

  名前を告げると

  表情が明るくなった

  嬉しそうに微笑んで

  名前を呼んでくれた

 

  半年前に一緒に食事をした

  今より体が動いて

  記憶もはっきりしていたが

  いつもどこか辛そうだった

 

  今日の彼女は

  穏やかな顔をして

  少女のように笑う

 

  何かを吹っ切ったような

  穏やかな瞳を見ていると

  楽になって良かったと思う

 

  思いたくなる

 

  さっき食べたおやつのケーキは

  彼女の記憶になれなかった


  来年のお正月も

  今日みたいに天気が良くってさ

  くだらないテレビ見て

  一緒に笑えるといいね

 

  彼女を抱きしめる

  その小ささにドキッとする

  温かい体温にホッとする

  細い細い手で

  背中をポンと叩いてくれた

 

  私はいつまで

  彼女の記憶でいられるだろう

 

  来年のお正月も

  一緒に笑えるといいね

 

  笑顔の写真を一枚撮って

  連れてきた

  今年最初の宝物

 

 

 

 


  ーーそんな2018年の始まり。

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 2018年文藝思潮現代詩賞第二次選考通過作品

 

 




        今年もよろしくお願いします。

 

お読みくださり、ありがとうございます。